中長期にビジネスを
成長させる、
DXと人材の在り方について。
対談
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
代表執行役員社長 長崎 忠雄氏
プラス株式会社 代表取締役社長 今泉 忠久
プラスでは、中長期的なビジネスの成長のためアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以降AWS)にご協力いただいています。
今回、長崎社長にDXの考え方について、さらにはDX時代におけるリーダーシップ・プリンシプル(以降LP)の重要性について語っていただきました。
写真左:今泉 忠久 写真右:長崎 忠雄氏
撮影場所:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 本社
※所属・役職は取材当時(2023年9月)
ちょっとした好奇心や新しい価値の創造。
フレキシブルに行えるかが事業の鍵となる。
新しいビジネスや組織を生み出す、
DXとは経営戦略の一つである。
プラスでは国内外でのさらなる成長に向けてDXによる経営基盤システム強化を図っていますが、会社のカルチャーや人材も変化させることが重要だと感じています。中長期でビジネスを成長させる上でのDXとは、また、DXに取り組む上で御社のLP※のような行動指針がもつ意義についてお聞かせ願います。
はい、よろしくお願いします。私が考えるDXとは会社の経営戦略の一つです。なぜかというと、アマゾンはネットでの書籍販売からスタートしましたが、新しい価値の創造やイノベーションを起こしてきた背景にはテクノロジーがあり、それによって経営戦略を形にしてきました。AWSのような全く違うビジネスもその過程で生まれています。何かを置き換えるという発想から会社が何を目指し、そのためには何が必要か。それを実現するためにテクノロジーと組織設計があると思っています。
なるほど。テクノロジーを活用することで会社の行動指針や新しいビジネス、組織が生まれることも含めてDXということですね。
そうです。いろいろなお客様とお付き合いしていますが、経営の中枢にテクノロジーやデジタルを置かれているお客様の方がDXの成功率が高いと感じます。テクノロジーによって新しいものを生み出すスピードは早まり、コストは劇的に下がっています。ちょっとした好奇心や新しい価値創造をいかにフレキシブルに行えるか、それが事業における鍵だと思っています。
ローコストかつスピーディにトライできるのはいいですよね。とはいえ、ITへの投資はコストが掛かるため躊躇される経営者も多くいると思います。
はい。かつてIT部門はイノベーションを加速する部門ではなくコスト部門と認識されていましたから、やむを得ないのかもしれません。ただ95年のIT予算を100とした場合、情報通信白書によると欧米諸国は増加していますが日本は横ばいです。これは10年、20年後、かなり差が出ると思います。
日本とアジア諸国では、どうしてそのような差が生まれてしまったのですか。
一つは過去の成功体験に捉われていること、二つ目はリスクを取らなくても社会人生活を送ることができるためかなと。日本では上司を見て仕事をして一定の年齢になるとリスクを取らなくなるケースが多い。そういった人が意思決定者になるため部下もリスクを取らないのだと思います。
失敗を恐れずに0から1を生み出す、
創造型の会社でありたい。
それは感じます。よく言われるのが、日本は0から1を生むのは苦手だが、1から100にするのは得意だと。改善文化なのでプロセスイノベーションは上手だけれど、新しいことをやろうとすると抵抗勢力が多く、全く実行につながらない。
やはり過去の成功体験に捉われて、新しいことにトライしようとしない環境なんでしょうね。
プラスにも理念や行動指針を明文化した「PLUSのココロ」というのがありまして、失敗を恐れずに0から1を生みだす会社でありたいという想いが書かれています。
なるほど。素晴らしいですね。
私たちは30年程前にアスクルという流通事業を0から生みだしました。この姿勢こそがプラスの企業文化の根底にあるべきという想いで、「新しい価値で、新しい満足を。」という理念を掲げました。ただ、どれだけの社員が自分ごと化して行動しているのか、浸透させるのは難しいとも感じています。
我々のLPが全ての会社に通じるとは思っていませんが、企業カルチャーをつくるヒントになると思っています。アマゾンは今、世界中に100万人以上社員がいて幅広い事業を展開しています。共通のミッションである「地球上で最もお客様を中心に考える」とは、お客様の御用聞きではなくお客様の代わりにイノベーションを起こすことです。問いかけ、潜在的なものを呼び起こすことを意識しています。事業によってお客様は異なりますが、共通のLPに基づき行動しているのが我々らしさです。
理念の解釈に、完璧な正解はない。
自分で考え、判断できる人材を。
LPで鍵となるのが人材ですね。我々は急成長してきたので、ほとんどの社員が経験者採用です。アマゾンのカルチャーにフィットするか、過去にリスクを取ってきた方かなどの基準をクリアし、採用された人材がミッションやLPを体現していきます。その時に重要なのがLPを正しく理解しているかということです。
どれだけ指針を立てても捉え方は人によっても違ってきますよね。
仰る通りです。正解はありません。ですから「私は、こう考えている」と余白を残して話すことを意識しています。正解を与えるとコピーしかしないので、自分の頭で考えて判断し、LPは必要な時に参照すればいいのです。
確かにそうですね。
もう一つ意識しているのは人材の評価基準に関するグローバルでの目線合わせです。日本では正しいがグローバルスタンダードでLPを発揮しているかです。商習慣は国によって違います。日本は謙虚が美徳とされ意見をあまり言いませんがそれではグローバルで戦えません。
なるほど。LPの観点から、グローバルスタンダードで平等に評価されるのですね。
そうですね。ただ、我々の本社はアメリカですが本社のやり方が全て正しいとも思っていません。考え方は世界共通で良いと思いますが、それをどうローカライズするかはその国のリーダーに委ねられています。それによって文化が醸成されることが重要で、日本のAWSの文化をつくるのが私のミッションです。
誰もが言い合える雰囲気が生まれる、
多様性やインクルージョンの視点。
我々は今回のDXで、同じ志を持った人が集まって仕事を成し遂げていくプロジェクト型組織の体質を手に入れたいと思っています。そして、何か選択する時はチャレンジングな方を取ってほしい。既定路線の延長線上は仕事をした気になるし、異常がないと上司に言いやすい。でも、異常をつくる方が褒められる会社であり、その判断の基盤が「PLUSのココロ」であってほしいと思っています。
大変面白い考えですね。
ただ、「PLUSのココロ」のエッセンスを人事制度上では「COMPASS(コンパス)」という能力評価指標に落としていますが、評価が年1回なのでコンパスに触れる機会も年1回になってしまいます。
我々も評価は年1回ですがインスタントフィードバックを意識していす。我々もLPを完璧に実践しているわけではなく、LPは理想です。要は北極星であり、ここに向かって進もうという指針です。会社は変化し続けるもので、終わりのない旅路です。でも振る舞いや行動は変わらないんじゃないかと、こうありたいというものを諦めず徹底的に話していくことが重要だと思います。
なるほど、インスタントフィードバック、つまり都度のコミュニケーションですね。僕自身もっと口に出さないといけないですね。定期的に、不定期にも会話をする。そのためには出社しないと駄目ですよね。
大賛成です。目と目を見て話さないことには理解し合えない。あとは誰もが意見が言える雰囲気ですよね。上意下達だと意見は言いにくいですし、年齢や性別、国籍など同類の人だけだと同じ意見しか出てこない。ですから我々は、多様性やインクルージョンを意識しています。多様なバックグラウンドの人が意見を言えなければイノベーションは生まれませんから。また、議論の際に「それはお客様のためになっているか」と問えるかどうか、「我々のミッションはお客様が中心です」の一言がチームメンバーから出ることが重要です。
わかります。我が社でも複数の事業責任者が集まり会議する場で「それはお客様にとって最適か」「社会にとっても最適か」と常に言い、立ち止まります。そこも僕らの目指すDXの姿です。しっかりとしたデータと仮説を持った状態で誰もが言い合える会議にしたいんです。
おっしゃる通りですね。そうすることで考えにブレがなくなってきますよね。
お客様のため。経済的に非合理でも、
面倒なことを徹底的に行う姿勢。
御社のオフィスを拝見していると多様な人材がのびのびと働ける環境づくりをされていると感じますが、そんな中で強制力を発揮する場合はどんな時ですか。
最近ですとリターン・トゥ・オフィスです。週3日出社と決めました。先ほどお話したように、目と目で話した方がイノベーションは増えるし、コミュニケーションコストも低いですからね。
我々も週3日です。コミュニケーションコストもそうですし、雑談からいろんなアイデアや価値が生まれことも分かっているので、雑談でもいいから会社に来てくれと言っています。
その通りです。私はエンゲージメントという言葉を使いますが、「いろんな会社があるけれどAWSが今いるフェーズは、みんなが顔と顔を見て話さないとお客様に価値が提供できない」と話しています。
デジタルな会社なのに意外だと驚かれませんか。
よく言われますが、AWSがいわゆるアメリカのハイテク系企業と違うのは、当たり前のことを地道にやっていることです。これは、我々のルーツがリテール、小売りだからです。誰もやりたなくないことを徹底的にやる会社なんです。
我が社も卸ビジネスからスタートしているのでよくわかります。目の前の顧客ニーズに経済的合理性がなくても徹底的に応えなければいけない。だから御社とは相性がいいのかなと思っています。
私もそう思います。
ここまで愚直に、顧客起点をスマートに具現化されている会社はなかなかないと思います。
立ち戻っていくと、結局ミッションに戻るんです。相反する時もあるけれど、多くはミッションに基づいて行動できているのが我が社のユニークな点ですね。
そうですね。御社でいうLPであり、私たちでいう「PLUSのココロ」ですね。本日は大変勉強になりました。貴重なお話ありがとうございました。
こちらこそ、御社の理想とするDXが成功に向かうまでご一緒させていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。